在宅7割……飲食店・飲食業界はテレワーク推進で「死ぬ」のか?

2020年7月末、東京・大阪・愛知といった大都市における感染拡大に伴って、西村経済再生担当大臣から以下の提言がなされた。

企業に「在宅7割」要請へ 大人数会合自粛を―政府:時事ドットコム
西村康稔経済再生担当相は26日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染者が全国的に増加している現状を踏まえ、各企業が社員のテレワーク率70%を目指すよう近く経済界に要請する考えを明らかにした。飲み会を含め、大人数の会合を控えることも求める。
新型コロナ: 西村経財相「在宅勤務を7割に」 経済界に再要請へ: 日本経済新聞
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「在宅勤務を7割に」

これは、感染の主な原因となる「人と人との接触」を減らすための提言である。オフィスに置く人員を削減できれば、会話の機会や飲み会の機会が減ることとなり、いわゆる「濃厚接触」が削減できるに違いない。

しかしながら、この「在宅7割」がとある業界に与えるダメージは非常に大きいものがある。その業界とは、今回のコロナ禍で売り上げを右肩下がりに落としている飲食業界だ。

本記事では、なぜ「在宅7割」「テレワーク推進」が飲食業界を困窮させるのかについてみていく。そのうえで、飲食業界にこれから起こりうる変化についてみていきたい。

私はただ飲食店でのバイト経験が長い素人で、感染症の専門家でもなければ経済・経営の専門家でもありません。ただし、根拠をもって主張致します。これから述べる内容は決して楽観論ではないことも含めてご承知おきください。

「在宅7割」の真のゴール

なぜ西村大臣はこのタイミングでテレワークを強烈なまでに推進しはじめたのか。それには、単に出勤者を減らす以上の目的がある。

まず現在の感染状況から考察しよう。

 

7月にかけて「通常の場」での感染が認められるように

少し前まで(6月末~7月前半)は、接待を伴う飲食店=ホスト・キャバクラ・クラブ・風俗などで感染が拡大している状態だった。

しかし、それから感染が急激に拡大した現在では、「夜の街」に限らず様々な場所で感染が確認されるようになった。

その主な感染の場の一つに挙げられるのが「会食」「飲み会」である。

舘田教授「飲み会や会食でも感染広がる 市中感染示すサイン」 | NHKニュース
【NHK】政府の分科会のメンバーで日本感染症学会の理事長を務める東邦大学の舘田一博教授は、「4連休の初日にこのような数字が出てきて…
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ただ出勤しただけではリスクは低い

実は、ただ出勤して働いただけでは感染の連鎖は起きにくい。十分に喚起を行っているオフィスでマスクをしながら勤務をしている限りは、リスクはそこまで高くないのだ。

続・症状がない人もマスクをつけるべきか?(忽那賢志) - Yahoo!ニュース
緊急事態宣言が延長されるにあたって専門家会議から出された「新しい生活様式」に関する提言の中で「症状がなくてもマスクを着用」が明記されました。無症状であってもマスクを着用する意義について再度解説します。
新型コロナ マスク着用による感染予防の最新エビデンス(忽那賢志) - Yahoo!ニュース
新型コロナウイルス感染症が流行して以降、屋内ではマスクを着用することが一般的になっています。これに関して、これまでは科学的な根拠が十分ではありませんでしたが、徐々にそのエビデンスが増えてきました。

ではなぜ出勤者を減らさなければならないのか。

もちろん、仕事をする以上は誰かとの会話は必然である。会話の機会、ひいては接触の機会は感染を防止する上で減らさなければならない。出勤者を減らせば直接のやり取りが減る。「職場」での感染リスクは大きく下がることだろう。

しかし、「職場で感染が拡大した」といわれるケースのほとんどが、実際は飲み会によるものと考えられている現状も見過ごせない。

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つまり、「在宅7割」の目指すところは単に出勤者を減らすことではないのだ。出勤の先にある接触機会、ひいては飲み会会食削減するのが真の狙いではないか。

事実、西村大臣は次のように述べている。

「会食や飲み会で感染が増えているのが心配だ。一人一人が感染防止策を徹底しなければいけない」―時事通信社のインタビューより

「在宅7割」の提言と共に「大人数での会食の自粛を」と西村大臣が述べたのは、何も関係がないとは思えない。

 

出勤者が減ることで苦境に立たされる飲食業界

「在宅7割」の真意が「会食・飲み会の削減」にあるとすれば、困るのは会食や飲み会の需要で成り立ってきた飲食業界である。

 

売り上げがなかなか伸びない

そもそも、飲食店の売り上げは2020年1月から漸進的に減少傾向であった。緊急事態宣言後に一時は盛り返したものの、ここ最近の感染拡大もあって売り上げ・利益ともに十分な回復には至らなかった。

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新型コロナ: 職場の飲み会 誘われても「断る」過半数、民間調べ: 日本経済新聞
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そんな中での「テレワーク推進」だ。先に触れた通り、ここには「飲み会やめとけよ」が寓意されている。

これは飲食業界にとって致命傷となるのではないか。

これまで多くの飲食店は「便利なところ」で営業することで利益を上げていた。オフィス街や駅の近くに位置することで、サラリーマンのランチ退勤後の飲み会を拾っていたわけだ。

公共交通機関で出勤する人の多くが徒歩移動でランチ・ディナーを嗜む。すると、勤務先または最寄り駅からのアクセスの良さが味以上に重視されることとなる。特に車での出勤例が少ない都会ではこの傾向が強い。

しかし、「在宅7割」はこうした便利な立地に基づく飲食店経営モデルを崩壊させてしまう。

公共交通機関の利用客が大幅に減少し、オフィス街には閑古鳥が鳴く。オフィスビルや駅の近くに出店した飲食店では極端に客入りが減ることだろう。

文字通り、「在宅7割」で(便利な立地×薄利多売の)飲食店が死ぬ。

 

感染対策も人が来なければ無意味

入り口に消毒液を設置したり、換気を良くしたり。現在の飲食店は涙ぐましい感染対策をアピールすることでなんとかお客さんを呼び込んでいる状態だ。

しかし、こうした感染防止アピールも街から人が減れば意味はない。その上、飲食業界自体が「感染の場」として忌避されている現状もある。

たしかに、感染防止には「在宅勤務の推進」「会食・飲み会の自粛」が役に立つ。特に飲み会なんかは感染の主戦場になっている感もあって、この認識はしばらく変わらないのではないか。

それでも、きちんと感染防止対策を行っている飲食店に罪はない。一部の専門家が指摘する通り、外食がすべて悪なのではなくて、場所やり方(3密と大声を避ける)を間違えなければ外食をしたってよいのだ。

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その点が普及できていないことに対して、飲食業界はもっと怒ってよいと思う。

 

ただ提言・報道するだけではなくて、新たな対策を

今回の西村大臣の提言は感染防止につながる。ただ、「在宅7割」で出勤者数を抑制し、会食・飲み会の自粛を要請するだけで事は足りない。それだけでは新たに困窮する業界が出てきてしまう。

いわば、コロナ時代の会食・飲み会のありかたについても同時に報道がなされるべきだった。西村大臣は「こういう場で感染が起きている」と述べたはずで、それと逆のかたちの会食・飲み会ならばリスクは低いと言える。

しかしながら、メディアは「在宅7割」に飛びつき、その他の事項をスキップした。

外食時における感染対策について十分な提言・報道がなされていれば、消費者心理のなかにも「外食は避けよう」ではなくて「こういう飲み会をしよう」「会食するけどマスクしていない間はしゃべらないでおこう」といった“新しい生活様式”が生まれていたかもしれない。

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