古墳群のボランティアの方々は観光客の増加にどう対応しているのか

文化

全長100m, 200mを超える約1500年前の「お墓」が住宅街の中にズラリと並ぶ。

大阪府百舌鳥・古市古墳群。2019年7月にその歴史的価値が広く認められ、晴れて世界文化遺産に登録された。

国・自治体・学者・地元住民の多くは、この空前の「古墳フィーバー」に沸いている。古墳群の保存体制を強め、観光客を誘致し、街を盛り上げていく構えだ。

 

一方で、問題点が噴出しつつあるのもまた事実と言えよう。

百舌鳥古墳群「遊覧ヘリうるさい」苦情50件 離着許可1時間以上超過も | 毎日新聞
 堺市で13~15日に行われたヘリによる百舌鳥(もず)古墳群の遊覧飛行で、市民から騒音を訴える約50件の苦情が市に寄せられたことが分かった。また、離着陸場の許可時間を1時間以上超過して使っていたことも判明し、市は企画運営会社に報告を求めている。

直接的なクレームではないとはいえ、地元住民からこんなにも苦情が寄せられた世界遺産がほかにあるだろうか。

「世界遺産」「住宅街」。この両者が平然と共存する例は僅少だ。


古墳の脇に当然のごとく家が並び、電車が走る

それゆえ、一部の地元住民の間では生活圏が急に世界遺産化・観光地化したことによる困惑も広がっているという。

メディアは世界遺産登録の喜びを伝えるばかりで、負の側面をあまり伝えてはいない。誰かが伝えなければ、困惑の声はお祝いムードにかき消されてしまう。

そこで、世界遺産登録前後に取材で何度も百舌鳥・古市古墳群を訪ねた筆者が、古墳マニア兼古墳を勉強中の大学生という独自の視点から、『古墳の世界遺産登録とその問題点』を探っていくことにした。

Vol.1 解説ボランティアの方々

世界遺産登録がほぼ確実となった2019年春以降、百舌鳥・古市古墳群を訪れる人の数は急激に増えた

ボランティアのAさん「人数的には、平日でも去年の今の時期の2~3倍やねぇ。休みの日なんか10倍くらいかも知らん」

人気は特に大阪府堺市百舌鳥古墳群の中でも一際大きな『日本一の古墳』こと仁徳天皇陵古墳(大山古墳)に集中している。


仁徳天皇陵古墳(大山古墳)

堺市の解説ボランティアの方々は、その仁徳天皇陵古墳の参拝所の前に立ち、観光客に対して古墳群の解説を行っている。

Aさん「正直ここに来たって古墳の形なんかわかれへんのよ。だから我々が解説して、少しでも満足して帰ってほしいんですわ」

なるほど。百舌鳥古墳群は確かに巨大古墳がひしめく歴史的に価値の高い遺跡だ。だが、その巨大さやユニークな前方後円形を実感するには、上から見るか、古墳に登る必要がある。

しかし多くの巨大古墳が宮内庁の管理下にあるため立ち入ることはできないし、ヘリコプターをチャーターするにもずいぶんお金がかかる。

Aさん「形なんか見られへんから、何がなんだかようわからんような顔してはる人も多くて。最近は近くの博物館でVR体験ゆうのやっていく方も多いみたいやけど、最近はアレも人数多すぎて変わっていってんねん。前は職員の方の解説付きやったけど、今はしてないらしくてな」

以前筆者も仁徳天皇陵古墳のすぐそばにある『堺市博物館』で 「仁徳天皇陵古墳VRツアー」を体験をしたことがある。

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そのときは確か、機器の使い方やVR映像の解説を職員さんが担当されていた。

しかし、今では録音の音声に切り替わってしまっているそうだ。急激な観光客の増加にはVRも対応できなかったらしい。

そんな状況でもボランティア解説は人の手が頼りだ。

Aさん「私たちもいっぱい来る人来る人に対応せなアカン。もちろん忙しくなるし大変やけど、多くの人に古墳の魅力を知ってほしいねん。なんせ古市古墳群にはボランティアの人がおれへんからね。百舌鳥で我々がやらな

人が増えても、自分たちができる範囲で人と人とのコミュニケーションを続ける。

仁徳天皇陵古墳を初めて訪れ、その巨大さゆえにいまいち前方後円墳らしい形を見られずがっかりした表情の観光客も、ボランティアさんの解説にはグッと納得し、笑顔を見せていた。

場所的にもプライド的にも、いまさら録音の音声に切り替えることはできない。そして急にボランティア活動をやめてしまうこともできない。

すべてはわざわざ堺市を訪れてくれた人に笑顔を見せてもらうため。次々と古墳を見に来る大勢のお客さんに、今日も古墳について詳しく解説している。

 

形がわかるオススメ古墳

Aさんの本当のおすすめは仁徳天皇陵古墳ではない。仁徳天皇陵古墳から歩いて15分、百舌鳥八幡宮にほど近い「土師ニサンザイ古墳」が最も美しいとのことだった。

Aさん前方後円墳らしい古墳見ようと思ったらニサンザイ古墳しかない。お兄さんも絶対行ったほうがええよ」

さすが長年古墳のそばで生活してきた方々だ。地元住民のオススメにハズレはない。

行ってみると、そこには確かに美しいくびれを持つ前方後円墳が横たわっていた。

思わず息を呑む。

 

Tips:急増する観光客への対応

人が多いと、どうしても捌ききるのは難しい。

有名観光地ならどこでも共通の問題だろう。ただし、百舌鳥・古市古墳群の場合、市民の生活とあまりにも近い場所で急激に観光客が増加したのだ。

次々とやってくるお客さんに対してどうすれば対処すればいいのか。それは堺市の誰にもわからない。

この問題に対して、自動化で解決をはかった博物館人対人のコミュニケーションを続ける解説ボランティアさんたち。

どちらが良いとか悪いとか、そういう性質の話ではない。

急な観光地化によって、とにかく動揺が広がっている。同じ堺市の中でも方針がバラバラ。この現状を伝えたかった。

これからも筆者は世界遺産となった古墳群周辺の現状を記事にしていく。

そして、世界遺産登録への世間のまなざしを変えていきたいと思う。実際は問題点だらけなのだ。

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