鉄道による通勤・通学の様相が大きく変化しつつある。
『着席サービス』の登場と普及―誰しもが満員電車に耐えなければならない時代から、「お金を払えば座れる時代」へ。
一口に“着席サービス”と言ってもその内実は様々だ。
全車指定席の電車(特急orライナー)に加え、通勤電車の中の1両だけが特別車両になっているケースもあり、追加料金の支払い方に関しても「事前購入」「車内で購入」「どちらも可」の3種類が存在する。
料金としては概ね500円前後、多くても1000円未満といったところ。
着席サービスを備えた電車はただ「確実に座れる」だけでなく、設備面で通常の電車・車両よりも随分快適なつくりになっているケースがほとんどである。
これが東京の都市圏でウケ、なんとしてでも座りたい仕事に疲れたサラリーマンを中心に『着席サービス』が好評を博していると聞く。
関西にもこの一大ムーブメントが訪れた。
大阪南部を走る泉北高速鉄道の「泉北ライナー」を嚆矢とし、その後京阪電鉄が特急用の編成に一両分「プレミアムカー」を導入。
そして2019年3月、JR西日本が在来線の看板列車・スピード自慢の“新快速”で新たな着席サービス「Aシート」を開始。
Aシート車両が連結された新快速は毎日2往復姫路↔野洲間で運転されており、京阪電鉄プレミアムカー特急の大阪(淀屋橋・京橋)↔京都(七条など)と真っ向から競合する。
つまり、Aシートの登場によって京阪電鉄とJR西日本の間で「京阪間着席サービス戦争」が勃発したのである。
この戦いを見過ごすわけにはいかない。
『JR西日本の「Aシート」と京阪電鉄の「プレミアムカー」、どちらが優れているのか?』
ケチで有名な関西人にとって、「どちらがお得か」はかなり重要。今回はこれをじっくり比較検討していくぞ……!
①新快速『Aシート』
新快速って何?
JR西日本の『新快速』は、簡単に言うと「追加料金ナシで乗れる日本最速の列車」だ。
なんとその最高時速は130㎞/h。下手な特急列車よりもよっぽど速い。
運行区間は北陸線(湖西線)・東海道線・山陽本線の三路線にまたがっており、北東端は福井県敦賀市・最西端は兵庫県の赤穂市。単に速いだけじゃなくて、運行区間も長い。
他社線との熾烈な争いが繰り広げられている大阪↔京都間は最速29分で結ぶ。新幹線とも競合できる程度には速い。怪物級である。
京阪間の旅客輸送に関しては名実ともに最強最速と言えよう。
そんな化け物みたいなスペックの「新快速」は、日中は毎時4本、つまり15分に1本以上運転されている。
運転本数としては決して少なくないのだが、最強最速であるため連日大混雑を見せてしまう。
特に京都↔大阪↔神戸の大都市区間はヤバくて、12両もつないでいる新快速の車内がパンパンになることも多々ある……
新快速『Aシート』の概要と利用方法
そんな新快速の利用状況と着席需要を鑑みてJR西日本が新たに設けたのが『Aシート』と呼ばれる着席サービス。
着席サービスを拡大しつつある首都圏の鉄道会社の方針に乗っかった形だ。
新快速に使用される12両編成の電車の京都側の先頭から4両目の車両を改造し、3ドアを前後2ドアに、車内にはやわらかい暖色系の照明とコンセント付きリクライニングシートを配した『Aシート』だが、
現在は試験的な段階で、改造を受けた車両は1本のみ。運行区間も野洲駅(滋賀県)↔姫路駅(兵庫県)と短い。
したがって1日2往復(平日と土休日で固定ダイヤが異なる)にとどまっている。狙わないと乗れないってことだ。
利用方法はとっても簡単。乗車・着席した後、車内で乗務員さんから整理券を500円で購入する。
事前の準備や指定券の購入は一切必要ない。交通系ICカードでの支払いも可能。手軽に利用できるのが強みだ。
確かに気軽に利用できる反面、列車が来るまで本当に座れるかどうかはわからない。着席サービスではあるけれど、実際に座れるかどうかに関しては運の要素も絡んできてしまうワケだ。
実際に『Aシート』を利用してみた
ココはJR大阪駅の新快速・快速のホーム、8番のりば。土曜日の夕方、遊びや休日出勤や塾や学校から帰る人であふれかえっている。
見渡す限りの大行列だ。先ほども述べた通り、新快速はその速さゆえに大人気&大混雑の列車である。しかもこの日はダイヤが乱れていた。さらなる混雑が予想される。
1本前の新快速が発車してすぐ、次の新快速を待つ人々がゾロゾロと並び始めた。
次の新快速は『Aシート』付き。Aシートの車両待機列にも一人か二人既に人の姿が見られる。
僕も前から二人目の位置(一応先頭)に陣取った。わざわざ15分も前に並び始めた理由は単純で、座れるかどうかわからないから。
『Aシート』最大のメリットは事前予約や事前購入を必要としない「気軽さ」にある。逆に言えば予約ができない。座れないこともありうる。早めに並ぶのが吉と言える。
でもそれじゃ、メリット半減では……?
全然気軽じゃない。
天下の大阪駅。新快速の途中駅の中でも最も乗り降りの激しい駅だ。普通車の待機列においても先頭に並んでいれば十中八九座れるだろうに……
快適?な車内設備
17:15の定刻をちょっと過ぎて、『Aシート』を連結した新快速がやってきた。
Aシートの待機列にも結局は8~10人ほど並んでいた。係員の方が何度も「ここは有料座席の列でございます!」と案内していたのだが、結局残った人数がそのくらい。思っていたよりも多いぞ。
普通車の列には20人以上並んでたけどね……
大阪駅でそこそこ人が下りたので、車内はある程度自由に座席を選べる状況だった。2×2列のリクライニングシートが並ぶ車内。
とりあえず座っておく。それがココのルール。座って待っていると乗務員さんがやってくるので、500円を支払い、整理券を購入する。
やっぱりどう考えてもこのシステムは非効率的だ。
通常の場合、新快速12両編成の車掌さんは一人。一方、Aシート車両には整理券の発売のために2人の乗務員さんがいらっしゃる。通常の3倍の人件費がかかるし、なんなら2人いても忙しそうだった。
利用者側からしても整理券を事前購入できたほうが確実に座れるメリットを享受できる。車内で乗務員さんが回ってくるまでの間ソワソワして待つ必要もない……
整理券の購入に難があるとはいえ、座席自体はめっちゃ快適だ。
リクライニングが結構倒れるし、前の座席の下に空間があるので脚も楽々伸ばせる。
大きなテーブルとコンセントが備わっている。携帯の充電やPCの使用もバッチリだ。ちなみにWi-Fiもあるよ。
ただし、結構揺れる。新快速電車には最高速度130㎞/hのスピード感があるので、それが嫌な人にとってはAシートに座ることができても快適ではないかもしれない。
それでもAシートはスゴイ。
乗り慣れた新快速のちょっとした変化を楽しめる。実用に特化したリクライニングシートと暖色系の照明が織りなす絶妙な空間。
気づけば京都駅に着く直前まで寝入っていた。
京都駅から滋賀方面へ利用する人も多かった。
『Aシート』のメリット
- 事前の準備、予約、購入が一切不要で気軽に利用できる
- 広々と足も伸ばせるリクライニングシート
- コンセントやテーブルもついていて充電や電子機器の使用も快適
- Wi-Fiが使える
『Aシート』のデメリット
- 列車の到着まで座れるかわからない
- まだ試験段階であるため特定の時間の列車を狙う必要がある
- 結局列の先頭で待ってしまう
- 乗務員さんが大変そう
- 揺れは結構激しい
『Aシート』の今後は?
車内の設備自体はJR西日本の特急列車並みで、かなり快適だと感じた。
でも、「車内で整理券を購入する」性質上、完全な「着席保証サービス」とは言い難いのが現状だ。
結局のところ、「たまたま駅に向かったら次の新快速がAシート付で、他の車両が混んでそうだからとりあえずAシートにしようかな」くらいの軽い気持ちで乗車するのが一番お得かも?
「車内で整理券を購入する」以外のシステム、例えばネット予約などが始まると便利だな、と強く感じた次第だ。