「疲れからか、黒塗りの新幹線に遭遇してしまう……」
2020年7月末、“世界最速の芸術鑑賞”のキャッチフレーズで親しまれた『現美新幹線』の運行終了が発表されました。
新潟名物の花火がデザインされた外装に加えて、車内にもさまざまな芸術作品を展示している現美新幹線。
……鉄道マニア・芸術マニアには広く知られた存在であったにもかかわらず、現美新幹線は突如引退することに。今のところ運行終了の理由は明らかにされていません。
しかし、一度現美新幹線に乗車したことのある筆者にはなんとなく「運行終了のワケ」の検討がつきます。なんと、利用客にものすごい偏りがあって……!?
現美新幹線の概要
まずは現美新幹線がどんな新幹線であるかをみていきましょう。
現美新幹線は、もともと秋田新幹線「こまち」に使用されていた車両を改造した新幹線でした。
全部で6両で、そのうち1両だけが指定席。そのほかの車両は芸術鑑賞車両で自由席。芸術鑑賞車両にはソファが並び、その向かい側に芸術作品が展示されています。内装は(車窓ではなく)芸術作品を眺めるために最適化されているのです。
気になる芸術作品は……ほぼ全て現代アートに位置付けられるモノでした。例えば抽象画・彫刻・映像・写真などなど。一人または一組のアーティストさんが丸々1両ぶんを担当している感じ。
言わずもがな、現美新幹線は移動ではなく芸術鑑賞を目的とした世界で唯一の新幹線なのです。
現美新幹線の運行区間は上越新幹線の新潟~越後湯沢。新幹線ではあるものの、通常は東京まで走ることもありません。
さらに言えば、運行される日も土日が中心。毎日運行されているわけではありません。
現美新幹線運転予定 画像:JR東日本新潟支社
運行区間が新潟県内で完結していて、運行も土日が中心。つまり、JR東日本は現美新幹線を新潟観光振興の一部として計画・運行しはじめたものと考えられます。
「新潟を訪れた観光客に現美新幹線を楽しんでもらう」「現美新幹線を目的に訪れた方に新潟県を楽しんでもらう」……そんな目的があったのでしょう。このように、現美新幹線の利用客としては観光客がメインになるはずでした。
ただし、現実には決してうまくいかなかったようです。
スーツ姿が目立つ車内
筆者が現美新幹線に乗ったのは2018年の秋。日曜日の夕方に新潟を出て越後湯沢に向かう便で、途中の長岡に向かいました。
乗車前には親子連れが新幹線の顔のところで記念写真を撮っている光景も。「車内は和気あいあいとした雰囲気なんだろうな」と思っていたんです。
ところが、日曜日の夕方であるにもかかわらず、車内にはスーツを着た男性の姿が目立ちます。
みなさまお疲れのご様子。車内を移動して芸術作品を鑑賞する人などほとんどいません。ソファにぐでっと座ってスマホを触るだとか、ビールを飲んでいる人も。
こと夕方の現美新幹線については、利用客のメイン層が観光客ではなく仕事終わりのサラリーマンだったのです。
同様の指摘は結構みられます。どうやら夕方の便に限らず現美新幹線の利用客はサラリーマンだらけだとか。
「乗り換え案内アプリで調べた新幹線に乗ったところ、たまたまそれが現美新幹線だった」なんてことも多いはず。
運行終了は利用客層のせい?
現美新幹線が運行終了してしまう原因はいくつか考えられます。元は秋田新幹線時代から使用している車両なわけですから、車両の老朽化も運行終了の理由の一つかもしれません。
でもやっぱり、今回の記事で述べたような「利用客層の違い」も運行終了の原因の一つなんじゃないかと。
想定では観光客が現美新幹線の利用客層のメインになるはずでした。ところが、実際に乗車するのは芸術にほとんど関心がないサラリーマンばかり。
極端な話、利用客のほとんどがサラリーマンであるならば、現美新幹線は新潟観光振興にはあまり寄与しなかったとも言えちゃいます。
現美新幹線は生まれ変わる?
ただ、たしかにサラリーマンだらけだったとはいえ、現美新幹線の利用客が少なかったわけではありません。つまり、その時間に新幹線の便があること自体はビジネス利用にかなり便利だったわけです。
したがって、現美新幹線の運行終了に伴って空いた時間に新たな「普通の新幹線」が設定される可能性もなくはない。(これも推測ですが……)
芸術作品のオーダー料金を含め、現美新幹線の運行には通常の新幹線の運行よりも経費がかかっていたはず。そこをカットして、ビジネス需要だけ拾いたい。
運行終了後の上越新幹線(の新潟県内区間)の動きには注目したいと思います。現美新幹線の運行終了はネガティブなものではなくて、ポジティブな「方針転換」なのかもしれないので……!