新型コロナウイルスは日本国内でも感染拡大の一途をたどっている。未知のウイルスは国民に「外出自粛」「休業」などを強いており、これまで経済生活に大きな痛手を与えてきた。
とりわけ飲食業界へのダメージは大きい。
飲食業界は2020年4月に入ってからの感染者数の増加ペース上昇や緊急事態宣言によって一気に深手を負ったわけではない。実は、年明けから徐々に体力を削られてきていた。
また、緊急事態宣言後、特に7月以降の感染再拡大はある意味では緊急事態宣言下以上に厳しい流れを飲食業界へともたらした可能性が高い。
なぜ飲食店はここまで窮地に立たされてしまったのか。大幅な売上減少とその理由を月別で追いながら考察していきたい。
1月:緩やかな下降線
新型コロナウイルスのニュースが日本で盛んに報道されるようになったのは、2019年の12月末、つまり年末のあわただしい時期だった。
「中国の武漢で、肺炎を引き起こす未知のウイルスの感染が拡大しつつあるらしい」
このニュースは驚きと恐れをもって迎えられた。近年の日本で急激に増えつつある外国人観光客=インバウンド層の大半がアジア人、それも中国人だったからだ。
しかも、年明け1月の半ばには中国の旧正月=春節が控えている。大量の中国人観光客が日本に訪れることは目に見えていた。
「中国人には来てほしいけど、感染は怖い」
飲食業界の方々は複雑な心境だったことだろう。
飲食店にとって1月は稼ぎ時だ。新年会やお食事会があちこちで催されるし、春節で中国人観光客もたくさん来てくれる。
新型コロナウイルスのことも多少気がかりではある。それでも、その影響が売り上げにハッキリと現れるようなことは多くなかったはずだし、売り上げへの影響なんて無いほうがよかった。
少なくとも、1月下旬までは。
中国人客が消え、まとまった売り上げが消える
1月の末ごろ。中国での感染拡大に歯止めが効かなくなってくると状況は一変。中国政府は国民に「ツアーの禁止」を打ち出した。
このあたりから日本の飲食店にも影響が出始める。
「これまで大挙してお店にやってきてくれた中国人ツアー客がいなくなった」
誤解を恐れずに言えば、彼らは「たくさん来てたくさん食べていく太いお客さん」である。それを一気に失ったのだから影響は計り知れない。
ただし、中国人ツアー客が消えたことで打撃を受けたお店はまだまだ限定的だったといえよう。
売り上げが下がったのは「インバウンド層の獲得に照準を合わせていたお店」「外国人に人気の観光地で営業するお店」であって、飲食業界全体ではなかったからだ。
「地元客が通うお店」の売り上げは通常通りだったため、『インバウンドなんか相手にするから……』といった冷たいムードが漂っていたのは事実である。